IMC理論
(論文)
IRとマネージメント・ブランディング
コーポレート・ブランドを、プロダクト・ブランドとマネージメント・ブランドという2つの要素に分解することにより、コーポレート・コミュニケーションの表現手法の使い分けと統一に関して、明確な指針を持つことが可能になります。
たとえば今までは、企業の投資家に対する広報活動であるインベスター・リレーションズ(IR)は、財務部などが行う特殊な金融コミュニケーションとして扱われ、通常その企業が行っているプロダクト・ブランディングと全くかけ離れたコミュニケーション手法が取られ、同一企業でありながらメッセージの方向性がバラバラになってしまう(IMCができていない)状態が多く見受けられました。
しかし逆にIRが進化し、財務部から他の部署に管轄が移り、他のコミュニケーションとの統合を試みようとすると、今度はブランディングというひとつの概念で、企業のすべてのコミュニケーションを統一しようと考えてしまうために、自社のオーナーである株主向けIRにも、プロダクト・ブランディングで用いている顧客向け広告手法を、そのまま適用してしまうという過ちを犯しがちでした。
コミュニケーションの目的達成と統合
そもそも広告は消費者を対象としており、IRは株主や投資家という全く性格の異なる利害関係者(ステーク・ホルダー)を対象としています。言い換えれば、広告は消費者市場を対象として商品を販売するためのマーケティング・コミュニケーション活動(プロダクト・ブランディング)です。これに対してIRは資本市場を対象として企業そのものをひとつの財とみなして販売するためのマーケティング・コミュニケーション活動(マネージメント・ブランディング)であると言うことができます。
そしてそれぞれが目的の違ったマーケティング・コミュニケーション活動である以上、それぞれの対象となる市場(マーケット)に対して全く違ったマーケティング戦略が必要となり、それぞれの戦略にリンクした別々のコミュニケーション戦術の手法が必要となるわけです。ただしプロダクト・ブランディングもマネージメント・ブランディングも、同一企業のコーポレート・ブランドを強化するためのブランディング活動ですから、そこに共通するブランド・アイデンティティとしての一貫性を持たせ、ブランド・メッセージとしての一貫性・継続性を維持する必要性があるのです。
少し複雑になりましたが、つまりは統合型マーケティング・コミュニケーション(IMC)を実行するということは、単純にすべての企業メッセージを統一するということではなく、それぞれの訴求対象となるマーケットに合わせたマーケティング・コミュニケーションの手法を別々に取りながらも、どちらのマーケットにも属するステーク・ホルダーにとって矛盾点がないように、企業のブランド・アイデンティティを統合しなければならないということです。そのために、どの部分がコミュニケーションの手法の要素で、どの部分がブランド・アイデンティティの要素なのか、といった表現要素の峻別を論理的に行い表現手法を使い分ける必要があるということです。
この手法の使い分けを明確にする上で、自社のコーポレート・ブランドを、プロダクト・ブランドとマネージメント・ブランドという2つの要素に分解し、それぞれのブランド・アイデンティティの相違点と共通点を、明確に定義し把握するということが大変有効な手段となります。
株価とブランド価値
マネージメント・ブランディングを強化するためのIRにおいて、常に企業の株価が重要な指標となりますが、株価を「企業が有する正味の有形資産と無形資産の合計値」と捉え、この無形資産の部分がその企業の広義のコーポレート・ブランド価値であることに着目し、企業経営を進めていくことも重要です。
ブランド価値測定にはいろいろな議論や手法がありますが、その定義や正確性に頭を悩ませるよりも、日々株式市場ではその企業の価格を決め、実際に企業そのものが売買されているわけですから、当然株価が最も正確なブランド価値の時価を示す指標であると考えるべきです。
単にIRによりマネージメント・ブランドを強化するというだけでなく、その活動を通じて中長期での株価の変化に着目し、無形資産の増減の要因がどこにあるのかを分析し経営戦略に生かす、あるいはプロダクト・ブランディングに生かすことで、IR活動を通してコーポレート・ブランド強化の具体的な課題を資本市場から取り入れ、改善することが可能となります。これこそIMCの重要な鍵となる「マーケット・イン思考」の実践につながり、資本市場では単に投資家の声だけではなく、消費者の声も含んだ価値として株価が形成されているという事実を見逃してはなりません。